解 説
(1997.4.1 受理)
マグネトグラフィは磁気の持つ安定性や記憶機能を利用するものであって,いったん潜像を記録すると,繰り返し現像•転写することができ,いわゆるマルチコピー が大量かつ高速に得られるという特徴を有するプリント方式である。
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トナーを使い,潜像記録,現像,転写,定着というプ ロセスを経てハードコピーを得るという点で,電子写真 と似ているが,静電気と磁気の本質的な違いが,画像形成プロセスを異なるものにしている。最も大きな違い は,静電気が( + )または( - )の単極で存在するのに対し て,磁気は常に N,S 両極が一体になって存在するこ とである。本稿では主に筆者らの開発したシステムに基 づいてマグネトグラフィの画像形成プロセスを論ずる。始めに記録媒体からトナーにどのような力が働くかを論 じ,次いで記録媒体上の磁気潜像がトナーによって可視像化されるプロセスを説明し,次いでトナーについて述 べる。最後に今後の課題と展望に触れる。なお,磁気学 の慣例として,図中 N 極を+で, S 極を—で表示して あるので,電気の,
+-+ ~- ではないことをおことわりして おく。
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2.1 原理
Fig. 1 に示すように磁化の向きを反転させて記録する と記録媒体上の転移領域に体積磁荷密度
rho=-div M\rho=-\operatorname{div} M な る磁荷が生ずる(
MM :記録媒体の磁化の強さ).この磁荷から空中に形成された磁界により磁性トナーが磁化さ
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れ,磁性トナー内部に磁荷が誘導される。その結果,磁性トナーは記録媒体に近い側で異極同士の吸引力を受け るとともに,記録媒体から遠い側では同極同士の反発力 を受ける(かつてはこれがマグネトグラフィで濃い画面 を実現することの難しさであるといわれていた¹)。こ のようにマグネトグラフィでは磁性トナーが常にN,S両極を持った双極子として存在するが,このことは電子写真や静電記録におけるトナーが+またはーの電荷を持 つ単極粒子として存在するのと本質的に異なる点であ る。
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{:[F=M*dH//dr],[=chi*H*dH//dr]:}\begin{aligned}
F & =M \cdot d H / d r \\
& =\chi \cdot H \cdot d H / d r
\end{aligned}
Fig. 1 記録媒体の磁荷とトナーに誘導される磁荷の関係。
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F,H,rF, H, r は同じ方向を有する。この式は磁界の空間勾配があるところに磁性粒子が置かれると、磁界の大きい方に磁性粒子を移動させる磁気力が働くが,磁界が均一 な空間に置かれた場合には磁性粒子を移動させる力が働 かないことを意味する。
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NRZ(Non-Return to Zero)記録を行ったときの転移領域を逆正接関数近似すると,磁界と磁気力は以下の近似式で表される
^(2)3)){ }^{2) 3)} .これらの式の導出にはマグネト グラフィに使用する代表的な金属めっき媒体と乾式トナ ーを想定してある。転移領域の中心を原点にとると,空間
(x_(0),z_(0))\left(x_{0}, z_{0}\right) における磁界
HH ,と単位体積当りのトナーに働く磁気力
FF は,次式で表すことができる。
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H(x_(0),z_(0))=+-(4M_(r)delta)/({x_(0)^(2)+(z_(0)+a)^(2)}^(1//2))=+-(4M_(r)delta)/(r_(0))H\left(x_{0}, z_{0}\right)= \pm \frac{4 M_{r} \delta}{\left\{x_{0}^{2}+\left(z_{0}+a\right)^{2}\right\}^{1 / 2}}= \pm \frac{4 M_{r} \delta}{r_{0}}
F(x_(0),z_(0))=-(chi(4M_(r)delta)^(2))/({x_(0)^(2)+(z_(0)+a)^(2)}^(3//2))=-(chi(4M_(r)delta)^(2))/(r_(0)^(3))(2)F\left(x_{0}, z_{0}\right)=-\frac{\chi\left(4 M_{r} \delta\right)^{2}}{\left\{x_{0}^{2}+\left(z_{0}+a\right)^{2}\right\}^{3 / 2}}=-\frac{\chi\left(4 M_{r} \delta\right)^{2}}{r_{0}^{3}}(2)
(磁荷の正負に拘らず)
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ここで
M_(r)M_{r} :記録媒体の残留磁化
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aa :磁化反転定数
(a=iota//pi,iota(a=\iota / \pi, \iota :反転幅
))
a≒2M_(r)*delta//H_(c)a \fallingdotseq 2 M_{r} \cdot \delta / H_{c}
H_(c)H_{c} :記録媒体の保磁力
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delta:\delta: 記録媒体の厚さ
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r_(0)r_{0} :仮想磁荷中心
(0,-a)(0,-a) から点
(x_(0),z_(0))\left(x_{0}, z_{0}\right)
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chi\chi :トナーの実効磁化率
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これらの式から点
(0,0,-a)(0,0,-a) を通り,
YY 軸に平行な線状または円筒状の仮想磁荷を等価モデルとして考える ことができる。トナーに働く磁気力は仮想磁荷中心
(0(0,
{:y_(0),-a)\left.y_{0},-a\right) に向かう吸引力であり,磁荷中心からの距離の 3 乗に逆比例する。
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Fig. 2 に磁気力の分布を,Fig. 3 に磁界と磁気力の分布のベクトル表示を示す。
XX 軸は水平磁化の方向に,
ZZ 軸は記録媒体平面から垂直な空間にとってある。な お,
YY 軸方向には一様であるとして扱っている。パラ メータの値には筆者らが開発した磁気プリンタにおける典型的な以下の数値を用いた.
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M_(r)=600M_{r}=600 Gauss,
H_(c)=400Oe,delta=1mum,a=3mumH_{c}=400 \mathrm{Oe}, \delta=1 \mu \mathrm{~m}, a=3 \mu \mathrm{~m} ,
chi=0.1,z_(0)=10 mum\chi=0.1, z_{0}=10 \mu \mathrm{~m}(トナー層の厚みを
20 mum20 \mu \mathrm{~m} としたと きのトナー層の中心部で代表させた)
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Fig. 2 より
x > 0x>0 の領域では
F_(x)F_{x}(磁気力
FF の媒体面 に平行な
xx 方向成分)が負であるから、トナーは
xx の負の方向に向かって引かれる。
x < 0x<0 の領域では
F_(x)F_{x} は正であるから、トナーは
xx の正の方向に向かって引か れる。つまり
F_(x)F_{x} はトナーを
x=0x=0 ,すなわち磁荷中心 に運ぶように働く。
F_(x)F_{x} は磁化反転幅(の端部付近で最
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大になる。これは磁化転移領域から外に出て行こうとす るトナーを転移領域内に引き込もうとする力が,最も強 く働くことを意味する。磁荷中心
x=0x=0 で
F_(x)=0F_{x}=0 である のは,ここがトナーにとって最も居心地がいいからであ る.磁気力
FF の
zz 方向(媒体面に垂直な方向)成分,
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F_(z)F_{z} は
xx のすべての領域にわたって負である。これはト ナーが
z=0z=0 の方向に、すなわち媒体面に向かって引か れることを意味する。磁気力
FF が負であるのは,磁気力
FF の向きが仮想磁荷中心
(0,-a)(0,-a) からの距離
rr と逆向きであること,すなわち磁気力
FF は磁性トナーを仮想磁荷中心に向けて吸引する力であることを意味する。
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Fig. 3 において磁界のベクトルが仮想磁荷中心から外に向いているのに対して,磁気力のベクトルの矢は仮想磁荷中心
(0,-a)(0,-a) を向いている。磁荷の極性が逆の場合に は,磁界も磁気力もベクトルの矢は仮想磁荷中心に向か う。
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磁気力の大きさは
10^(3)gf//cm^(3)10^{3} \mathrm{gf} / \mathrm{cm}^{3} のオーダになる。これ は磁性トナーの重さよりおよそ 3 桁大きく,電子写真に おいてトナーに作用する静電気力と同程度である。磁気 プリンタでは電子写真プリンタと同程度の画像濃度が得 られており,トナーの付着量も同程度であるから,この値は妥当であるといえる。なお,垂直記録の場合も同程度の吸引力が働いている
^(4)){ }^{4)} 。
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電子写真の現像法はトナーが(+)または( — )という電荷を帯びた単極粒子として振舞うことを利用している が、マグネトグラフィでは 1 個のトナーの中に N,S両極があって,双極子として振る舞うため,新しい現像法の開発が必要であった。ここでは筆者らが開発した, トナーが双極子であるという性質に適合した弱磁界現像法(磁気チェーン法)を紹介する
^(5)){ }^{5)} 。
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チェーン状に連ねておく。記録媒体の転移領域からは空中に潜像磁界が生じている。記録媒体のトナー吸引力と現像磁界との関係が次の条件を満たすように設定する。
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画像部:記録媒体のトナー吸引力>トナーチェーンの結合力
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非画像部:記録媒体のトナー吸引力<トナーチェーン の結合力
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(b)に示すようにこの状態で記録媒体とトナーとを接触させると,記録媒体の画像部は媒体磁荷から近いため磁気吸引力が強く,かつ潜像磁界と現像磁界の向きとが同じであるから,トナーはそのままの向きですんなりと記録媒体側に移動し,黒画像を形成する。他方,記録媒体の背景部では潜像磁界と現像磁界の向きが逆であるた め、トナーを移動させるにはトナーの磁化の向きを逆転 させなければならない。が,この部分は媒体磁荷から遠 いため潜像磁界が弱いので、トナーはチェーン状のまま現像磁界側にとどまり,記録媒体側に移ってこない。こ うして画像部にトナーを引き渡し,背景部にトナーが付着するのを防止することができる。
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Fig. 5 に基本的な現像機の構造と記録ドラムとの配置関係を示す。現像ロールは回転する非磁性のスリーブ と,それに囲まれて固定された磁気ロールとからなる。磁気ロールの
N_(1)\mathrm{N}_{1} 極と
S_(1)\mathrm{S}_{1} 極とで現像磁界を形成する。他の 4 極はトナーの運搬用である。トナーが記録ドラム と接触する現像領域では、トナーは
N_(1)\mathrm{N}_{1} 極から
S_(1)\mathrm{S}_{1} 極へ伸びている磁束線に沿って鎖状につながりトナーチェー ンを形成する。
N_(1)\mathrm{N}_{1} 極上ではトナーがブラシ状に立って いるが,現像領域ではトナーが寝ている。電子写真の磁気ブラシ現像では現像磁石の磁極が現像領域にあってト ナーが立っているが,それと様相を異にする。
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